遠くまで走れるようになったら、速く走れるようになるのか?
- Nezumi Fukuda
- 2015年4月1日
- 読了時間: 8分
本職の方でお客さんの相談を受けていると、割と難しい問題を呈された。
「遠くまで走れるようになったら、速く走れるようになるのか?」
この問題については、二つのアプローチをかけてみる。
・初心者の場合、長距離が走れるようになれば、ある程度まで速くなるということ。
・しかし、脱初心者の場合は、長距離を走る能力と、速く走る能力は別物になる。しかし、やはり長距離を走ることで速く走る能力もいくらかは鍛えられる。
珍しく、堅いことを言うわけだ。
まず、初心者は遠く=速くから考える。
自転車を速く走らせるにせよ、遠くまで走らせるにせよ、共通しているのは次の三点だろう。
・筋肉量。
・心肺機能。
・伝達効率。
読んで字の通りなのだが、初心者がまず覚えるべきと「伝達効率」なのだ。
というのも、自転車をこぐって言うのはとても特殊な筋肉の使い方をするから。
どんなスポーツも特殊な筋肉の使い方というのはあるのだが、ほとんどのスポーツで共通する筋肉の使い方というのがある。
それは、地面に足で立つということだ。
足で地面を蹴って力を作る。
これは、陸上競技はもちろんながら、野球やサッカーのような球技でもだ。
上半身だけのフォームっていうのは、どうしても力が弱い。
スポーツに限らず引越しのバイトなんかでもそうだ。
地面って言うのは、非常に強い。
自転車に乗るというのは、地面から浮いている。
これが自転車の筋肉が難しい一番の理由だろう。
別に自転車に限らず、サーフィンやスノーボードみたいなスポーツも地面をしっかりと踏めない。
この手のスポーツの場合、とにかくそのスポーツ特有の、地面を蹴らずに、力を作るという筋肉の使い方を覚えるのが一番重要になってくる。
筋肉の使い方を覚えるのは、理論よりも慣れてしまうのが早い。
だから、遠くまで走るのは初心者にとって大事なのだ。
別に遠くまで走らなくても良いけれど、たくさん乗ってみるっていうのが大事なのだ。
そして、漠然と乗るじゃなくて、何かしらの目標、より効率の良い自転車のための筋肉の使い方を覚えるのに効率の良い目標を持った方が良い。
そういう点で手っ取り早いのが「遠くまで走れるようになる」ということなのだ。
目指せ百キロ、と。
分かりやすい。
はて、じゃあ、二番目の問題「百キロ走れるのは当然の脱初心者にとっても同じ理屈が通るのか」というところに進む。
これが非常に難しい。
伝達効率と一口に言っても、短距離を速く走るため、長時間を速く走るため、ゆっくりでもとにかく長い時間を走るため、それぞれ筋肉の動かし方が同じなのか?という問題。
動かし方が変われば必要な筋肉も違う。
また、エネルギー生成の方法も変わる。有酸素系、無酸素系など。
ただし、心肺機能は強い方が良いというのはどちらにも或る程度は共通する。
ちょっと専門的な言葉で言えば、
「LSDトレーニングって、速くなるためのトレーニングとして必要なのか?」
っていうことになる。
LSDっていうのは、Long(長く)Slow(ゆっくり)Distans(距離)の頭文字を取った言葉である。悪い薬の名前ではない。
まあ、この言葉も厄介だ。
Longって具体的にどのくらいの時間?
Slowってどのくらいの時速?
Distansってどのくらいの距離?
目先の数字は後にして(結局最後まで本稿では触れなかったけど)、LSD、スロートレーニングの原理と方法を考えていこう。
言葉は本によって違うけれど、スロートレーニングの狙いは要約すると以下のようになる。
「筋収縮中は血流が阻害される。これが脳に伝わると阻害というマイナスの要素に対する代償作用が起きる。脳下垂体という部分から成長ホルモン等が分泌され、毛細血管を増加させ、遅筋中のミトコンドリアを増加させ、さらに中間筋の遅筋化が促される」
方法としては、負荷を下げることで三倍程度の時間をかけて行うトレーニング方法である。
筋肉の増加には成長ホルモンの分泌はとても大事だ。
毛細血管の増加、ミトコンドリアの増加も自転車競技には有用とされえいる。
しかし、自転車競技の場合、遅筋、速筋、中間筋の割合では、中間筋が欲しいというのも事実ではある。
荒い片付け方をしてしまうと、メリットもあれば、デメリットもあるということ。
それでも、事実としては、競輪選手もLSDトレーニングはするのだ。
(まあ、競輪選手のLSDは、彼らにとってはゆっくりでも、我々アマチュアには結構な速度らしいが。)
LSDトレーニングをしている選手は怪我に強いというのはかなり信憑性があるようだ。
怪我が一番いけないというのはどのスポーツでも共通だ。
ここまでのことを考えると、LSDは直接的には短時間のレースには効果はないものの、成長ホルモンや、毛細血管、ミトコンドリアといった、持久スポーツに不可欠なものの増加には大きく貢献するとまとまるだろう。
さらに言えば、怪我に強くなるので、トレーニング量自体を増やしても耐えることができる体を作りやすいというのも言える。
LSDだけではヒルクライムレースには勝てない。
でも、ヒルクライムレースやクリテリウムなんかの特化したトレーニングをするときには、LSDをしている方が効率は良いと考えられる。
速くなるもいろいろあるけれど、日本の国土的な問題やら何やらからアマチュアはヒルクライムが参加しやすいので、ヒルクライムを考える。
もし、ヒルクライムレースに勝ちたいと思うなら、まずそのコースを走ってみることだ。
それも、トップタイムに迫るペースで。
もちろん、そのペースで完走は難しい。完走できればトレーニングはほぼ必要ない。
しかし、そのペースで走れなければ、勝つ事は無理なのだ。
なぜ走り切れないのか。
心肺が弱いのか、筋肉が弱いのか、フォームが悪いのか。
それがいくらか掴めるのかもしれない。
心肺が弱ければローラー台が良い。
筋肉が弱ければ、インターバルやSFRなどの筋力トレーニングを行えば良い。
フォームが悪ければ、自分にとって最適な坂の上り方が見付かるまで、繰り返しいろんな坂を上るのが良い。
でも、多分、たいていのひとは、フォームの問題が一番に来るし、筋肉や心肺を鍛えるのは難しい。
さらに言えば、ローラーは心肺には効くけれど、坂を登るための筋肉を動かすようにするのは難しい。
それに対して、インターバルやSFR、実際の坂を使うトレーニングは筋肉、フォームを狙いながらも、心肺にも或る程度の効果がある。
やはり坂を速くなるには、本当の坂を登るのが一番良いというのは間違いない。
それでも、ローラー台が支持されるのは、ローラーは手軽なのだ。
良い坂が自分の家の中にあれば、ローラーなんか不要だが、そうは行かない。
ローラーは家の中にある。
パジャマのままでも乗れる。
ローラーは家の中で簡単に出来るとレーニングの中で、もっとも実走に近似したトレーニングであるというのが最大の魅力だ。
長距離を走るのと、坂を登るフォームは違う。
近所に良い坂があるとは限らない。
長距離を走っても坂が強くなるとは限らないの問題点は、平地の200kmと標高差1000mの150kmのルートが等しくないということもある。
距離を伸ばしたくなると、坂を避けざるを得ない。
坂をするにしても、レースではマックスの70%を維持したいのに、ロングライドではその前後を考えると40%程度で走り続けないといけない。
LSDだけでは速くはなれない。
しかし、LSDをしていれば、実際に速くなるためのトレーニングをするときにすごく有利になれる。
これはヒルクライムレースに限らない。
だから、
「或る意味ではLSDをしていれば速くなるけれど、LSDでは速くはならない」
ということになるんだろう。
でも、「速い」っていうのが、レースに勝つほどの速さとは限らない。
「普通にサイクリングして、まあ、そんなにしょっちゅう抜かれることはない」
っていうぐらいの速度は十分に速いという人もいる。
そのくらいを求めている人もいる。
いや、むしろ、その程度の速さを求めている人の方が自転車人口の中で圧倒的多数派なのだ。
そういう速さであれば、LSDだけでも速くなるというのも成立することもある。
まあ、あれこれ試行錯誤してみるのが面白い。
もしも、このトレーニングだけしていれば速くなれる、遠くに行けるっていうなら、多分、僕はそこまで自転車にハマってないんじゃないかなって思ったりもする。
まあ、基本的には良い景色に自分の足でたどり着いて、写真を撮って、コーラでも飲んでぼんやりするのが好きだから、なかなか速くなるっていうのには縁は遠いんだけれど。
でも、やっぱり速くなりたいと思うこともあるし、そのためのトレーニングもいくらかはするし、理論を勉強したりもする。
けれど、なかなか速くならない。
自分が思い描いているほどの長距離を走ることもまだまだ出来ない。
あんまりガリガリしたくはないけど、ついつい時々ガリガリしちゃうときもある。
やっぱり自転車は楽しい。

写真は私の筋肉の先生。
自転車は全然速くないけれど、筋肉や細胞のことを教えてくれる。
そして、何より、綺麗な景色に自分の足でたどり着いた感動を話すとすごく喜んでくれる。
感動を共有できるっていうのが大事だと最近思います。
遠くに行くにせよ、速くなるにせよ。
遠くの良い景色に付いたら写真を撮ってすぐ送っちゃう。
「お前らは恋人か」って。
速くなって、勝てたら、筋肉の先生にもお礼を言いたいなって思える。
そう言いつつ、いつもサボってばかりなんだけどね。
まあ、そんなこんな。
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